名古屋地方裁判所 平成7年(わ)497号 判決 1995年6月12日
被告人
氏名
伴昌利
年齢
昭和七年九月二八日生
本籍
愛知県大府市吉田町丸根二六番地の一
住居
愛知県大府市吉田町丸根二六番地
職業
会社役員
検察官
北野彰
弁護人(国選)
森田辰彦
主文
被告人を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に処する。
罰金を全額納付することができないときは、その未納分について金五万円を一日に換算した期間労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
《犯罪事実》
第一 被告人は、愛知県大府市吉田町丸根二六番地において、「伴畜産」の名称で家畜仲買業(平成七年一月有限会社伴畜産を設立)を営んでいたが、確定申告の際、売上を適当に除外するなどして、所得金額を過少に申告することにより、所得の一部を秘匿して所得税を免れようと考えた。そこで、平成三年三月六日、愛知県半田市宮路町五〇番地の五所在の所轄半田税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の実際の総所得金額が五九六四万〇五九三円であったにもかかわらず、同年分の総所得金額が六一七万一一四三円で、これに対する所得税が六五万五八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出した。その結果、正規の所得税額二五二二万四五〇〇円と右申告税額との差額二四五六万八七〇〇円の所得税を免れた。
第二 被告人は、前同様の方法により、所得税を免れようと考え、平成四年三月一二日、前記半田税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の実際の総所得金額が四七七七万九五六四円であったにもかかわらず、同年分の総所得金額が三〇九万二二四六円で、これに対する所得税が二一万七八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出した。その結果、正規の所得税額一九二五万七五〇〇円と右申告税額との差額一九〇三万九七〇〇円の所得税を免れた。
第三 被告人は、前同様の方法により、所得税を免れようと考え、平成五年三月一一日、前記半田税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の実際の総所得金額が二八五五万三七一〇円であったにもかかわらず、同年分の総所得金額が三六六万一七二二円で、これに対する所得税が二八万〇九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出した。その結果、正規の所得税額九九五万〇五〇〇円と右申告税額との差額九六六万九六〇〇円の所得税を免れた。
《証拠》
括弧内は、検察官請求証拠番号を示す。
判示全事実について
一 被告人の
1 公判供述
2 検察官調書(乙1、2)
一 査察官調査書(甲5ないし11)
判事第一事実について
一 証明書(甲1)
判事第二事実について
一 証明書(甲2)
判事第三事実について
一 証明書(甲3)
《法令の適用》
罰条
いずれも所得税法二三八条一項、二項
刑種の選択
懲役と罰金の併科刑
併合罪加重(なお、本件では、平成七年五月一二日法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項により、同法による改正前の刑法を適用し、以下、同法を「刑法」という。)
懲役刑につき
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い第一の罪の刑に加重)
罰金刑につき
刑法四五条前段、四八条二項
労役場留置
刑法一八条
刑の執行猶予
刑法二五条一項
訴訟費用の負担
刑事訴訟法一八一条一項本文
《量刑の事情》
本件は、被告人が、自己の三年分の所得税を免れようと、確定申告の際、不実の申告をし、五三〇〇万円余りの税を免れたという事案である。
幼年期に貧しい思いをしたこともあり、せっかく儲けた金をできるだけ手放したくないと思ったという気持ちや、歯科医の娘のために開業資金を出してやりたいと思った気持ちも必ずしも分からないではない。しかし、他にも同様に、不正に納税を免れているものがいるなどとして、国民の当然の義務である納税義務を免れようとしたというのは身勝手であり同情できない。そして、免れた税額も相当多額に上り、各年の逋脱率が九七パーセントを超えている。また、犯行態様も、売上を適当に除外し、これに応じて仕入れも除外するなどという信頼を基礎とした申告納税制度に反するものである。そうすると、被告人の罪責は相当重い。
しかし、被告人には、約四〇年前にぞう物罪で執行猶予付懲役刑に処せられた前科が認められるものの、それ以後は、本件を除き概ね真面目に暮らしていること、犯行の態様も、周到で極めて悪質とまではいえないこと、本件で、本税は当然のこと、重加算税として一八六三万七五〇〇円を、延滞税として八五七万九七〇〇円をそれぞれ既に支払っていること、現在では、事業の方も余り思わしくない様子であること等の有利な事情も認められる。
そこで、これらの事情を全部考慮し、主文の通り量刑した上、懲役刑については、刑の執行を猶予することにした。
(求刑 懲役一年及び罰金一六〇〇万円)
(裁判官 和田真)